「雪」にまつわるエピソード~雪の降らないクリスマス・イブ~1?/?/2003・k256
曲 名 クリスマス・イブ
歌手名 山下達郎
結婚した年の初めてのクリスマス。
当時住んでいた市営団地の5階の我が家で二人だけで過ごした。
どんなご馳走を食べたかは忘れたけれど、山下達郎の「クリスマス・イブ」を聞きながら、ワインを飲んだ。
まだ、CDが普及していない頃で、そのEP盤は、独身の時に買ったものだった。曲自体もまだCMに使われる前で、それほど有名ではなかった。小さくてもずしりと重かったコンポーネント・ステレオのプレーヤーをリピートにセットして、何度も繰り返し聞いた。
熊本のことを鹿児島や宮崎みたいに南国だと思っている人は多い。しかし、大方は内陸性の気候で、阿蘇を除いて雪はあまり降らないが、とにかく冬は寒い。しんしんと冷え込んでいくクリスマス・イブの夜。妻はそのうちウトウトしはじめたが、その夜の私は、私にしては珍しく酔っても眠くならなかった。
歌のように雨が雪に変わることはとても望めなかったけれど、私の胸にはなんだかわけもなく、熱いものがこみ上げてきた。
ただ、飲み過ぎただけかもしれなかったけれど、こんなに幸せでいいのだろうかと、涙があふれてきたことを覚えている。
それからは、結婚を後悔したときにひそかに思い出すことにしている私のエピソードのひとつとなった。もちろん、妻はすやすやと寝入っていたので、知る由もないことだ。
Then and Now : 「週刊ポスト」平成15年3月28日号の「重松清のちくメロ放送局」に採用されて、重松氏が、このエピソードをもとに短編を書いてくれた。いつか、短編集に収められるかと期待していたが、いかんせん、この手の話は、氏にとって手馴れすぎて、一読者としても新味に欠ける。出版されることは望み薄だろう。でもまあ、ちょっとは心温まるクリスマスのお話かなと、ここにオリジナル・テキストを収録。
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